Last updated on May 13, 2017
Gentiana algida Pall. f. igarashii (Miyabe et Kudô) Toyok.
トウヤクリンドウの品種とされるクモイリンドウ
Canon EOS7D + EF50mm F1.4 USM
Mt. Taisetsu - Hakuundake in Late August, 2015
花をつけない茎からまるでイネ科のような葉を多数出します
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Taisetsu - Koizumidake in Late August, 2015
単生する茎頂に長さ5cmほどの大きな花を数個咲かせます
Canon EOS5D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Taisetsu - Koizumidake in Mid August, 2009
雄性先熟及び雌雄離熟という自家受粉を避けるシステムを持ちます
Canon EOS5D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Taisetsu - Koizumidake in Mid August, 2009
花冠の内側と外側で異なる模様は花粉媒介者への蜜標でしょうね
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Taisetsu - Hakuundake in Late August, 2015
高山植物としては群を抜く花期の遅さ…隣はすでに花期が終了したエゾハハコヨモギ
Canon EOS5D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Taisetsu - Koizumidake in Mid August, 2009
【 参考文献 】
Bynum, M. R. and W. K. Smith. 2001. Floral Movements in Response to Thunderstorms Improve Reproductive Effort in the Alpine Species Gentiana algida (Gentianaceae). American Journal of Botany 88(6): 1088-1095. doi:10.2307/2657092
Hinoma, A. 2006. FLORA OF HOKKAIDO - Distribution Maps of Vascular Plants in HOKKAIDO, JAPAN. [ http://www.hinoma.com/maps/plants/m8443.gif ] (accessed May 8, 2017).
Ho, T. N. and J. S. Pringle. 1995. Flora of China 16: 51, [ http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=200017879 ] (accessed May 12, 2017).
岸波義彦 (1929)「龍膽屬植物ノ花冠ノ刺戟運動ニ就キテ」植物学雑誌 43, pp.217-227, 日本植物学会. doi.org/10.15281/jplantres1887.43.217
工藤岳・横須賀邦子 (2012)「高山植物群落の開花フェノロジー構造の場所間変動と年変動:市民ボランティアによる高山生態系長期モニタリング調査」保全生態学研究 17, pp.49-62, 日本生態学会. doi.org/10.18960/hozen.17.1_49
清水建美編著 (2014)『増補改訂新版 高山に咲く花』門田裕一監修, pp.308-309, 山と渓谷社.
Toyokuni, H. 1963. CONSPECTUS GENTIANACEARUM JAPONICARUM : A general view of the Gentianaceae indigenous to Japan. Journal of the Faculty of Science, Hokkaido University. Series 5, Botany 7(4): 137-259. hdl.handle.net/2115/26303
梅沢俊 (2009)『新版 北海道の高山植物』p.73, 北海道新聞社.
北海道では大雪山系の限られた場所に生育するクモイリンドウ Gentiana algida f. igarashii ですが、アジアから北アメリカまで広く分布する母種トウヤクリンドウ G. algida に含める見解と、全体はより小型で花が大きいことから北海道産のものを品種に分ける見解があります。個人的にはトウヤクリンドウに含まれるのかな…程度の根拠が希薄な考えを持っていますが、ここでは北海道で定着しきっている感がある品種クモイリンドウの名を採用しました。
大雪山系の風衝地で見られる植物の中では飛び抜けて遅い8月中旬に開花し、やや黄色味を帯びた白地に、濃緑だが青みもある深い色合いの筋や模様が入る花冠はとてもシックな装いで、わずか数ヶ月という短い夏山シーズンの最後を飾るにふさわしい存在。イネ科のような葉が基部に多数まとまってつき、あたかも緑の舞台上で白く大振りな花冠の演舞するがごとく、特に大きな株は大変見栄えもよいので、登山者さんの間でも人気があります。ただ、寒冷な年では開花を迎える前に冬が到来してしまう個体もあるようです。
この時期の高山では不安定な天候の日が多く、急な大雨に見舞われることもしばしば。それは我々ヒトだけではなく、このクモイリンドウにとっても同じこと。しかも美しい鐘形の花冠は、まるで雨水を貯めてしまいそうな形状。しかしリンドウ属には、雨滴から大切な雄しべや雌しべを守るためと考えられている、花冠を開閉する動きが古くから知られています。雨雲が近づく予兆でもある急な気温の低下が引き金となって花冠が閉じ、のちに天候が回復し気温が上がると花冠は再び開きます。閉じる動きは意外と素早く、トウヤクリンドウではおよそ10分以内で完全に閉じ、開く動きは比較的緩やかで25〜40分を要するとか。さらに、実験的に昼間の直射日光下で花冠に氷水を吹きかけた場合、及び夜間に温水を吹きかけた場合でも、同様に花冠の開閉が観察されたようです。つまりトウヤクリンドウの花冠開閉運動は、日照があるかないかではなく、花冠周囲の急激な温度変化によって誘発されることを示しています。
植物は動くことができません。定着しようとする環境への適応力を備えていなければ、それはすなわち死を意味します。一体どれほどの歳月をかけ、どのような過程を経て、このような適応性を獲得するに至ったのか…そんな思いを巡らせながら、クモイリンドウ及びトウヤクリンドウを愛でることもまた一興ではないでしょうか。