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ミヤマリンドウ - 深山竜胆

Gentiana nipponica Maxim.

ミヤマリンドウ全体

夏山シーズン後半の常連ミヤマリンドウ…白いモウセンゴケの花を脇役に

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Taisetsu - Numanohara Mire in Early August, 2015

ミヤマリンドウ生育環境

雪渓や雪田が消えた場所から順に開花するので花を目にする期間は長め

Canon EOS5D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Taisetsu - Hakuundake in Mid August, 2009

ミヤマリンドウ全体

環境により変わりますが高さは15cmほどでしょうか

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Taisetsu - Numanohara Mire in Early August, 2015

ミヤマリンドウ全体

柄がなく厚手で光沢のある葉が対生しています

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Taisetsu - Hakuundake in Last August, 2015

ミヤマリンドウ花

花の径は2cmもありませんが大変美しい花色

Canon EOS20D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Shokanbetsudake in Mid July, 2009

ミヤマリンドウ花

花冠裂片および副片は共に5裂し天気が良いと平開します

Canon EOS20D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Shokanbetsudake in Mid July, 2009

ミヤマリンドウ花

萼裂片は先がやや開く程度で平開するほどではありません

Canon EOS5D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Taisetsu - Hakuundake in Mid August, 2009

ミヤマリンドウ全体

天候悪化の気配を察するとあっという間に花冠を閉じてしまいます

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Taisetsu - Akadake in Last August, 2014

ミヤマリンドウ花

時折花冠4裂&雄しべ4本のものも見られます

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Hirayama in Mid July, 2015

ミヤマリンドウ花

これはよく見ると花冠6裂&雄しべ6本の花が…わかるかな?

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Taisetsu - Numanohara Mire in Early August, 2015

ミヤマリンドウ花

花色の濃淡はそこそこ変化があるようです

Canon EOS7D + EF300mm F4L IS USM
Mt. Yubaridake in Last August, 2012

ミヤマリンドウ白花

稀に白花も見られます…これは厳密には青い色素が薄いと言うべきか

Canon EOS5D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Taisetsu - Akadake in Mid August, 2009

深山竜胆 - ミヤマリンドウ

- リンドウ科 リンドウ属 -

北海道の短い夏山シーズン後半を代表するミヤマリンドウ Gentiana nipponica。視野に入るとハッとするような、やや赤みを帯びた深い藍色の花冠はとても美しく、個人的には好みの花の一つです。日本固有種で、大雪山系や日高山脈、夕張山地では普通種的な存在ですが、それ以外となると実は北海道でも見られる山域はかなり限られています。姿形や生育環境が似ている同属の リシリリンドウ G. jamesii は、花冠副片が平開せずに雄しべや雌しべのある筒部を塞ぐこと、萼裂片が基部近くから反り返るように開くことなどが大きな違い。花色もより深みがあり、見た目の印象はかなり異なります。本州では似た環境で見られる タテヤマリンドウ G. thunbergii var. minor は、花期に根出葉があることや葉が鱗片状であることが特徴。なお、北海道のタテヤマリンドウは高山では見られず、低地の湿原環境に生育しています。

ミヤマリンドウは多年草で、常緑であるという報告があります。茎は数年にわたって絶えず生育して葉は枯れることなく増え、一定レベルの葉数になると花をつけます。やがて開花し種子を作り終えると、根を残し地上部は枯れてしまうようです。高さと同程度の長さの匍匐枝を伸ばし、小さなクローンの株を作ります。自家受粉は可能ですが、雄性先熟の雌雄異熟であるため自殖による種子生産は稀。主な花粉媒介者はマルハナバチで、双翅類や鱗翅類の昆虫も訪花します。花は開花後も開閉可能で、天候悪化などによる急な温度低下を感じると花を閉じ、その後天候が回復し温度が上昇すると再び開くという、リンドウ科に多く見られる特性があります。例えば株の周囲に雪で壁を作り、意図的に気温を下げてじっくり観察すると、目視できるほどの速度で花冠が閉じるそうです。

水分が多い環境を好むミヤマリンドウは高山の雪渓や雪田脇、湿原などで多く見られ、雪が消えた場所から順次咲き始めます。例えば遅くまで雪が残る大雪山系では、およそ7月下旬から9月中旬まで比較的長く花を目にすることができます。登山者にとっては嬉しいことですが、当のミヤマリンドウにとっては個体群単位でみると雪解け時期により生育可能な期間にかなりの差ができてしまうことになります。一つの雪渓や雪田内でも雪解け時期は大きく異なり、雪解けの遅い環境に生育する個体では種子生産どころか開花すらできない年もあるようです。

このように、ほんの数百メートル内ですら1ヶ月以上も開花時期が異なる状況は、時間的及び空間的な隔離をもたらすのではないか?という予測を検証した研究があります。雪解けの早い場所と遅い場所にそれぞれ生育するミヤマリンドウの株を相互に移植し、そのフェノロジーを観察した結果、開花までの温度要求性 (簡単に言うとサクラの開花予想に用いられる積算温度のようなもの) が移植された環境を反映して大きな可塑的変化を示したことから、局所的な個体群間でも開花フェノロジーに遺伝的な影響を有する可能性が示唆されました。特に雪解けが遅い生育地から早い生育地に移植されたミヤマリンドウは、元々雪解けの早い環境で生育していたミヤマリンドウよりも同じ条件下で顕著に開花が早かったとのこと。つまり本来の生育地における開花までの温度要求性が、異なる環境に移植されても保たれていると推察されます。

例えるなら…あなたがある年の大雪山系赤岳第四雪渓で7月下旬に見たミヤマリンドウの開花個体と、同じ第四雪渓で8月下旬に見たミヤマリンドウの開花個体には、外見は全く変わらずとも実は遺伝的に開花フェノロジーを左右するほどの大きな違いを有しているのかもしれません。地理的隔離による種分化という事象はよく見聞きしますが、もしかすると局所的な雪解け時期の違いによる時間的及び空間的な隔離も、新たな種分化が起こり得る選択圧になるのかもしれませんね。

【 参考文献 】

Hinoma, A. 2006. FLORA OF HOKKAIDO - Distribution Maps of Vascular Plants in HOKKAIDO, JAPAN. [ http://www.hinoma.com/maps/plants/m8457.gif ] (accessed August 4, 2017).

Hirao, A. S. and G. Kudo. 2004. Landscape genetics of alpine-snowbed plants: comparisons along geographic and snowmelt gradients. Heredity 93(3): 290-298. doi:10.1038/sj.hdy.6800503

Kawai, Y. and G. Kudo. 2011. Local differentiation of flowering phenology in an alpine-snowbed herb Gentiana nipponica. Botany 89(6): 361-367. doi:10.1139/B11-024

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Kudo, G. 1991. Effects of Snow-Free Period on the Phenology of Alpine Plants Inhabiting Snow Patches. Arctic and Alpine Research 23(4): 436-443. doi.org/10.1080/00040851.1991.12002863

工藤岳編著 (2000)「高山植物の開花フェノロジーと結実成功」,『高山植物の自然史 - お花畑の生態学』pp.117-130, 北海道大学図書刊行会.

工藤岳・横須賀邦子 (2012)「高山植物群落の開花フェノロジー構造の場所間変動と年変動:市民ボランティアによる高山生態系長期モニタリング調査」保全生態学研究 17, pp.49-62, 日本生態学会. doi.org/10.18960/hozen.17.1_49

清水建美編著 (2014)『増補改訂新版 高山に咲く花』門田裕一監修, p.306, 山と渓谷社.

Toyokuni, H. 1963. CONSPECTUS GENTIANACEARUM JAPONICARUM : A general view of the Gentianaceae indigenous to Japan. Journal of the Faculty of Science, Hokkaido University. Series 5, Botany 7(4): 137-259. hdl.handle.net/2115/26303

梅沢俊 (2009)『新版 北海道の高山植物』p.72, 北海道新聞社.

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