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ツルアリドオシ - 蔓蟻通

Mitchella undulata Siebold et Zucc.

ツルアリドオシ全体

北海道では数少ない常緑多年草の一つツルアリドオシ

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Ebetsu City in Early July, 2014

ツルアリドオシ群生

落ち葉の下では匍匐枝が地上を這っています

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Ebetsu City in Early July, 2014

ツルアリドオシ全体

見えているのは分岐した枝の先端部分なのです

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Apoidake in Early July, 2014

ツルアリドオシ全体

深緑色で厚手の葉が対生しています

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Ebetsu City in Early July, 2014

ツルアリドオシ葉

葉は縁がやや波打ち長さ1〜1.5cmほど

Canon EOS20D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Ebetsu City in Early July, 2009

ツルアリドオシ蕾

花は茎の先端に2つセットでつきます…これは蕾の状態

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Ebetsu City in Early July, 2013

ツルアリドオシ全体

花冠は筒状漏斗形で長さはおよそ1〜1.5cm

Canon EOS20D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Ebetsu City in Early July, 2009

ツルアリドオシ花

花冠内側は毛が密生し上部は4裂するものが多数派

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Ebetsu City in Early July, 2014

ツルアリドオシ花

異型花柱性です…これは雌しべが花冠から突き出す長花柱花

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Ebetsu City in Early July, 2014

ツルアリドオシ花

これは短花柱花…花冠は3裂や5裂するものも時折見られます

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Apoidake in Early July, 2014

ツルアリドオシ花

花の下部にある子房が合着していることはツルアリドオシ属の大きな特徴

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Ebetsu City in Early July, 2014

ツルアリドオシ果実

真っ赤な果実は核果(石果)で2花の痕跡が残ります

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Apoidake in early July.2014

ツルアリドオシ全体

周囲のチゴユリやミヤマスミレの葉と比べるとその小ささがわかります

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Apoidake in Early July, 2014

蔓蟻通 - ツルアリドオシ

- アカネ科 ツルアリドオシ属 -

ツルアリドオシ Mitchella undulata という和名の通り、茎が蔓のように這って伸びる常緑多年草で、北海道では分布がやや西半分に偏っています。対生する葉はそれぞれ長さ1cmほどと小さく、内側に毛が密生する白い漏斗状の花冠や真っ赤な果実がなければ、大変地味で目立たない存在です。一方、我々が見ているのは匍匐茎から多数分岐した枝の先端部分であり、本体を辿って落ち葉をかき分けていくと、時には不定根を出しながら、大きなものではなんと4mに達する株もあるとか!実はかなりの長さを有する植物のようです。ツルアリドオシという和名は、蟻をも突き刺せるような長く鋭い棘を持つ、同じアカネ科で常緑小低木のアリドオシ Damnacanthus indicus var. indicus (北海道には分布せず) に似た赤い実をつけるが、茎が蔓のように這うことから…という説が一般的。なお、ツルアリドオシに棘はありません。

分岐した枝の先端に白い花をペアで咲かせます。その繁殖方式は「種の起源」を著したチャールズ・ダーウィンがサクラソウ属 Primula において詳しく観察したことでも有名な異型花柱性。雌しべが長く雄しべが短い長花柱花と、雌しべは短く雄しべが長い短花柱花があり、異なる花型間で花粉をやりとりした場合によく実を結び種子が多くできるという、他殖促進の性質です。長花柱花のみを咲かせる株と短花柱花のみを咲かせる株があり、同属で北アメリカ東部に分布する Mitchella repens ではマルハナバチ類が送粉を担っており、ツルアリドオシもおそらくマルハナバチ類、あるいはチョウ類など長い口器を持つ昆虫が主要な花粉媒介者であると推測できます。

ツルアリドオシのもう一つの特徴は、ペアで咲く花の基部にある子房が合着していることです。マルハナバチたちによる送粉のおかげで真っ赤な核果 (石果) が結実しますが、よく見ると1つの果実に2つの花の痕跡が見て取れます。とは言え、果実の中身は隣接する子房壁が融合しただけで、4つの子房室に1つの胚珠を有するという1花ごとの構造はそのままだそうです。果実をお得な2個パックで包装したようなものですね。チシマヒョウタンボク Lonicera chamissoi などスイカズラ属にも子房が合着する種があり、なぜこのような形態に至ったのか不思議です。赤く色づく果実なので、おそらく動物散布 (鳥散布?) であろうと思われますが、一度に少しでも多くの種子を運んでもらうための戦略なのでしょうか。

【 参考文献 】

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Ohwi, J. 1965. FLORA OF JAPAN in English: 829.

Robbrecht, E., C. Puff and A. Igersheim. 1991. THE GENERA MITCHELLA AND DAMNACANTHUS - Evidence for their close alliance; comments on the campylotropy in the Rubiaceae and the circumscription of the Morindeae. BLUMEA 35: 307-345.

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梅沢俊 (2012)『新北海道の花』p.106, 北海道大学出版会.

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