Last updated on May 22, 2018

アイヌタチツボスミレ - アイヌ立壺菫

Viola sacchalinensis H.Boissieu

アイヌタチツボスミレ全体

オオタチツボスミレによく似ているアイヌタチツボスミレ

Canon EOS5D + TAMRON SP AF90mm F2.8 Di MACRO
Mt. Hakken in Mid May, 2012

アイヌタチツボスミレ全体

札幌周辺では岩場で見かけることが多いかも

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Sapporo City in Mid May, 2016

アイヌタチツボスミレ全体

標高が上がると登山道や林道脇で見かける機会が増えます

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Teine in MId June, 2016

アイヌタチツボスミレ全体

地上茎あり…根際からも葉腋からも花もつけます

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Sapporo City in MId May, 2017

アイヌタチツボスミレ花

側花弁に毛が密にあることは大きな特徴

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Monbetsudake - Date City in Early May, 2014

アイヌタチツボスミレ花

オオタチツボより花色が濃い傾向はあるかも

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Sapporo City in Late May, 2015

アイヌタチツボスミレ距

距は白色でややスリムな形状

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Sapporo City in Mid May, 2017

アイヌタチツボスミレ距

距には縦に筋のようなものが入っています

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Sapporo City in Mid May, 2017

アイヌタチツボスミレ花

直射日光下でちょっと見辛いですが白い斑の入っている花がありました

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Monbetsudake - Date City in Early May, 2014

アイヌタチツボスミレ托葉

托葉の縁はオオタチツボスミレほど深く切れ込まない印象

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Sapporo City in Late May, 2015

アイヌタチツボスミレ葉

葉は基部が浅い心形で表面に若干光沢を持つ傾向はあるかも

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Sapporo City in Mid May, 2017

アイヌタチツボスミレ葉

葉裏はしばしば紫色を帯びることがあります

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Sapporo City in Mid May, 2017

アイヌタチツボスミレ果実

果実をつけていました…開放花が終わると次々に閉鎖花をつけます

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Hakken in Mid August, 2013

アイヌタチツボスミレ×オオタチツボスミレ

これはアイヌタチツボスミレとオオタチツボスミレの交雑種と考えられる個体

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Teine in Mid June, 2016

アイヌタチツボスミレ×オオタチツボスミレ

アイヌタチツボ × オオタチツボの花…一見オオタチツボスミレのようですが側花弁に毛が!

Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Mt. Teine in Mid June, 2016

アイヌ立壺菫 - アイヌタチツボスミレ

- スミレ科 スミレ属 -

北海道では道北や道東地方で比較的多く見られ、道央地方では岩場やその周辺、及び少し標高が上がると見かける程度、道南地方になるとかなり少数派で、道央在住の者にとっては見つけるとちょこっと嬉しいアイヌタチツボスミレ Viola sacchalinensis。本州では中部地方以北に分布しますが、稀に産する程度のようです。全体像は タチツボスミレ V. grypoceras var. grypocerasオオタチツボスミレ V. kusanoana とよく似ており、眺めるだけではなかなか見分けがつきません。外観上で最もわかりやすい違いは、側花弁基部に毛が密にあること。葉に厚みと光沢が若干感じられることや、基部がタチツボやオオタチツボほど深くはない浅めの心形であることも、花のない時期にはかろうじて見分けポイントになるでしょうか。いずれにしても、足を止めてじっくり観察することが確実な同定への近道ですね。ちなみに、このアイヌタチツボスミレが超塩基性岩地の影響を受けたものが、品種 アポイタチツボスミレ V. sacchalinensis f. alpina であるとのこと。

前述の通り、タチツボスミレやオオタチツボスミレとよく似ていますが、花柱上部に突起毛があること、側花弁基部の毛が多いこと、距に縦筋があることなどの形態的特徴から、むしろ エゾノタチツボスミレ V. acuminata に近縁であるとされています。さらに、近年盛んに行われている分子系統学的研究において、アイヌタチツボスミレを含むエゾノタチツボスミレ類はタチツボスミレ類に含まれず近接する分類群であることや、8つの葉緑体DNAを使用した研究では、アイヌタチツボスミレとイブキスミレ V. mirabilis var. subglabra が単系統を形成 (同じ祖先を持つ可能性が高いということ) し、エゾノタチツボスミレはその姉妹群 (“祖先の祖先”が同じ可能性が高いということ) であるという報告などもあることから、遺伝的にも近縁であることが裏付けられつつあります。

2016年、スミレのみならず植物全般、昆虫、鳥類などに精通している方々と山行を共にする機会に恵まれ、その折にアイヌタチツボスミレとオオタチツボスミレの交雑種と推定される個体に出会うことができました。一見するとオオタチツボスミレと思ってしまいそうな外観でしたが、花をよく見ると側花弁が有毛であることに驚いた記憶が蘇ります。アイヌタチツボスミレに関する交雑種はなかなか見られないそうで、他種との花期のオーバーラップ、地理的関係、訪花昆虫などが余程恵まれないと出現しない印象を持ちました。エンレイソウ属などでも同様ですが、やはり標高が上がると諸条件が重なる傾向があるのでしょうか。

ところで、そもそもこの和名…なぜ “アイヌ” を冠したタチツボスミレなのか?色々調べる努力はしているのですが、いまだに解答を見出すことができていません。おそらく意味合いとしてアイヌ≒エゾであることは容易に想像できます。つまり、本当はエゾと名付けたかったのに、すでに他種 (エゾノタチツボスミレ) で使用されているじゃないか!じゃあ代わりにアイヌで…のような感じだと思うのですが。もし、アイヌを冠する和名の由来に関する文献などをご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報いただけると喜びます。

【 参考文献 】

畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道 (2013)『増補改訂新版 山に咲く花』門田裕一監修, p.320, 山と渓谷社.

Hinoma, A. 2002. FLORA OF HOKKAIDO - Distribution Maps of Vascular Plants in HOKKAIDO, JAPAN. <http://abies.s16.coreserver.jp/maps/plants/m7754pa.gif> (accessed April 4, 2018).

五十嵐博 (2003)「北海道スミレ集覧」北方山草 20, pp.67-77, 北方山草会.

五十嵐博 (2008)「北海道スミレ図鑑」faura 19, pp.18-23, ナチュラリー.

いがりまさし (2012)『増補改訂 日本のスミレ』pp.92-93, 山と渓谷社.

Chen, Y.S., Q. Yang, H. Ohba, V. V. Nikitin. 2007. Flora of China 13: 82, <http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=200014417> (accessed April 4, 2018).

中井猛之進 (1922)「雜録 すみれ雜記 (其一)」植物学雑誌 36, pp.52-61, 日本植物学会.

Ohwi, J. 1965. FLORA OF JAPAN in English: 639.

佐藤照雄 (2015) 「スミレの釧路地方分布 (予報)」北方山草 32, pp.63-78, 北方山草会.

内田暁友 (2007) 「知床のスミレ」,『しれとこライブラリー⑦ 知床の植物Ⅱ』斜里町立知床博物館編, pp.166-181, 北海道新聞社.

植田邦彦 (2014)「タチツボスミレ類における「種」の存在様式の解析」平成26年度科学研究費助成事業研究成果報告書, 金沢大学.

梅沢俊 (2007)『北海道 春の花 絵とき検索表Ⅱ』pp.12-13, エコ・ネットワーク.

梅沢俊 (2017)『新北海道の花』p.321, 北海道大学出版会.

山田隆彦 (2010)『スミレ ハンドブック』p.42, 文一総合出版.

Yoo, K. and S. Jang. 2010. Infrageneric relationships of Korean Viola based on eight chloroplast markers. Journal of Systematics and Evolution 48(6): 474-481. doi.org/10.1111/j.1759-6831.2010.00102.x

GO TO HOME