Last updated on March 28, 2017
Viola hondoensis W.Becker et H.Boissieu
北海道に分布するスミレ属では最も早く開花するアオイスミレ
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Mid April, 2014
全体が地面にへばりつくように生育しています…
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Mid April, 2014
…なので大変撮りづらい花です…背後の黄花はナニワズ
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Late April, 2015
春に出て秋に枯れる夏葉と秋に出て翌春に枯れる冬葉があります
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Late April, 2015
手前のくすんだ緑色が冬葉で奥の鮮やかな緑色が夏葉
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Late April, 2015
夏葉は花の咲く頃に根本から筒状に丸まった状態で出てきます
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Late April, 2015
花期に見られる葉は径2〜3cmほどで円形〜円心形
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Late April, 2015
花柄は立ち上がらず花は支離滅裂な向きで咲いています
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Mid April, 2014
淡い青紫色の花は一見するとタチツボスミレ的
Canon EOS20D + EF300mm F4L IS USM + EF1.4xII
Suttsu Town in Late April, 2011
花柱の先端が鉤 (カギ) 型に大きく曲がることが特徴の一つ
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Mid April, 2014
側花弁基部の毛はまばらにあったりほとんどなかったり
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Late April, 2015
萼片は丸っこく鈍頭で距は太く多少いびつになる印象
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Late April, 2015
托葉は広披針形で縁に長毛があります
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Mid April, 2014
匍匐茎が伸びて新苗を作るのでマット状に群生する傾向
Canon EOS7D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Suttsu Town in Late April, 2015
【 参考文献 】
畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道 (2013)『増補改訂新版 野に咲く花』林弥栄・門田裕一監修, p.326, 山と渓谷社.
Chen, Y. S., Q. Yang, H. Ohba and V. A. Nikitin. 2007. Flora of China 13: 84, [ http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=250073309 ] (accessed March 26, 2017).
Hinoma, A. 2005. FLORA OF HOKKAIDO - Distribution Maps of Vascular Plants in HOKKAIDO, JAPAN. [ http://www.hinoma.com/maps/plants/m7731.gif ] (accessed March 26, 2017).
Hikosaka, K., Y. Kawauchi and T. Kurosawa. 2010. Why does Viola hondoensis (Violaceae) shed its winter leaves in spring? American Journal of Botany 97(12): 1944-1950. doi:10.3732/ajb.1000045
北方圏生物研究会 (年不詳)「道南地域のスミレ類」[ http://hokuseiken.web.fc2.com/violets_in_hakodate.html ] (参照 2017-03-28).
五十嵐博 (2008)「北海道スミレ図鑑」faura 19, pp.18-23, ナチュラリー.
いがりまさし (2005)『増補改訂 日本のスミレ』pp.104-105, 山と渓谷社.
Masuda, M. and T. Yahara. 1992. Dispersal of chasmogamous and cleistogamous seeds in Viola hondoensis W. Backer et H. Boiss. The Botanical Magazine 105(2): 232-236. doi:10.1007/BF02489424
Ohwi, J. 1965. FLORA OF JAPAN in English: 635.
多田多恵子 (2008)『身近な植物に発見!種子たちの知恵』pp.156-157, NHK出版.
多田多恵子 (2012)『野に咲く花の生態図鑑』pp.8-11, 河出書房新社.
梅沢俊 (2005)「北海道・草花の風景7 低地や低山に咲くスミレの仲間」faura 7, pp.58-61, ナチュラリー.
梅沢俊 (2007)『改訂版 北海道 春の花 絵とき検索表II』pp.14-15, エコ・ネットワーク.
梅沢俊 (2012)『新北海道の花』p.324, 北海道大学出版会.
山田隆彦 (2010)『スミレハンドブック』p.47, 文一総合出版.
スミレ属の中では花期が大変早いアオイスミレ Viola hondoensis。他のスミレ類が花を咲かせる頃にはすでに果実ができているほど。北海道から九州まで分布し、北海道では一応全域で点々と見られますが、あまり多いスミレではありません。花を一見すると タチツボスミレ V. grypoceras var. grypoceras に似た印象を受けますが、アオイスミレの花柱は先端が下にカクッと大きく曲がる (鉤状) こと、萼片の形状に円みがあり、先端が鈍頭であることなどがわかりやすい違い。さらにそのタチツボスミレよりも遥かによく似ているのが エゾアオイスミレ V. collina で、匍匐茎を出さないこと、葉先がとがり気味であること、概ね冬葉がないこと (ただしアオイスミレの冬葉も冬期に枯れてしまう場合がある) などの違いがあります。
アオイスミレには夏葉と冬葉があり、それぞれの葉の寿命は1年に満たないのですが、年中いずれかの緑葉をつけていることになるので、個々の植物体としては一応常緑植物と言えます。春、花の咲く頃に出る夏葉は、他の植物との日照獲得競争を有利にするため花後は葉柄がぐんぐん伸び、葉身も広がり、別種の植物ではないかと見紛うほど大きくなります。その結果、自分自身の冬葉を遮光してしまい、そのことが誘因となって冬葉は枯れてしまうのだとか。一方、夏葉が役目を終える秋に登場する冬葉は、積雪や霜、強風などのリスク低減のためか葉柄は短く葉身も小ぶりで、そのまま冬を越します。冬に地上部が全て枯れてしまうエゾアオイスミレ (ただし越冬葉がある個体も稀に見られるらしい) に対して、アオイスミレはあえて2種類の葉を作り出すという生存戦略を選んだようです。
アオイスミレの種子散布もスミレ類としては少々独特。この花を写真に撮ったことがある方にはわかると思いますが、花柄が立ち上がらず地際で葉に隠れるように咲いているので本当に撮りづらい…。もしかするとその一因には、繁殖戦略が関わっているかもしれません。アオイスミレは種子散布を100%アリに委ねています。スミレ類の種子にはアリが好むゼリー状のエライオソーム (種枕) が付いていますが、アオイスミレのエライオソームは特大で、アリに種子を運んでもらおうという意図が明確です。さらにスミレ類の花には開放花と閉鎖花があり、共に果実は蒴果で、裂開した後に種子を一つずつ弾き飛ばすシステムがありますが、アオイスミレは種子を飛ばすようなシステムを持ち合わせていません。その代わり、開放花は花柄を立ち上げることなく地面に転がるように咲かせ、閉鎖花も根際に付けることで、果実をなるべく地面近くで成熟させてアリに発見してもらう確率を上げ、特大エライオソームという対価を支払うことで種子散布を依頼しているのではないでしょうか。結果論かもしれませんが、Win-Winの関係と言えるのではないかと。
種子にエライオソームを付けるアリ散布植物は、スミレ類の他に エゾエンゴサク Corydalis fumariifolia subsp. azurea や カタクリ Erythronium japonicum、フクジュソウ Adonis ramosa など、いわゆるスプリング・エフェメラルと呼ばれる春植物にも多く見られます。これらの植物たちは、様々な制約がある生活史の中であの手この手の作戦を編み出しつつ、現在に至っています。植物たちが花粉の送粉者や種子の散布者と共に進化しつつある一場面を、我々は垣間見ているのかもしれませんね。